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2006年06月14日

『血』

浦上俊司

焦った様子の女性の甲高い声が私の携帯に飛び込んできた。
あいにく、電波状況の悪い居酒屋で飲んでいたものだから、相手の名乗った声が聞き取れなかった。
そして結構な緊迫感を伴った声で「○月○日の前3日間で空いている日はありませんかッ?!」と来た。

研修オファーにしては、やけに危機感が感じられる。(そんなに急がんでもええやん~)
アンテナが3本立つ場所に移動して聞きなおした。

献血の予約だった。

以前記したように私は月に一~二回は献血に行く。
しかし今回の献血は日と時間を指定して来てくれとのこと。

よくよく聞いてみると白血病の方の手術の日が決まっていて、採決後72時間以内の新鮮な血液でないとダメらしい。(何でも専門家の世界は奥が深いのぅ~)

そして指定された日にいつもの献血ルームに行った。
不思議な事にスタッフの方々が、妙に安堵の表情を浮かべて私を迎えてくれる。(なんで~?不思議~)

私はいつも通り血圧を測って寝転がって45分間、のんびりとテレビを観ながら過ごすルーティンワークのつもりだった。
しかし今回の献血の予約の意図を聞いてみて、私はスタッフの安堵の表情の意味が分かった。

なんと私の血液はAB型で希少価値がある(これは以前から聞いていた)上に、今回手術をされる患者さんの特徴あるタイプにピタッと当てはまる血液なのだそうだ。(白血球の数やら骨髄のなんちゃらかんちゃらやら、過去のデータやら、なんせあらゆる角度からの照合をするらしい)

その確率たるや、7000人から8000人にほんの数人しかいないとの事。

つまり私がこの日、体調が悪くて献血できないとか、直前に風邪薬を飲んでて献血できないとか、約束をいきなりブッチして来ないとか、前日にストリートファイトに巻き込まれて死んだりとか、何が起こるか分からない物騒な世の中でアクシデントに遭って献血が不可能になっていれば、一人の患者さんの手術に重大な影響があったというのだ。

そんな背景で私がフラリと現われたものだから上記の表情になったわけだ。(納得~)

その凄い確率を聞いて、私は宝くじに当選したような興奮と、こんな私でも見ず知らずの方のお役に立てる清らかな喜びと、前日まで無茶な事をしなくて良かった安心と、無事にここに足を運ばせてくれた見えざる大いなる力に対する畏怖の念とが複雑に交錯した。

沢山の感情を心に詰め込んでベッドに寝転んだ私を包んだのは、もちろん内側から湧き上がる‘感謝’だ。

私の血液が名も知らない他人を救える感謝。
こうしている間にも苦しく辛い思いをしている患者さんに比べて、私は身体に一回もメスを入れたことが無い運命に感謝。
そして、今ここで献血をしている現実そのものに感謝。
ついでに可愛い看護士さんが優しい眼差しで私の左腕に触れてくれる事に感謝。(女性に永い間触れていないと些細な事でも妙に感動するのじゃ)

・・・そして凄い発見をした。

清らかな感情を持った時には、あの太い献血針を刺す時の痛みが全く皆無だったのだ。(感謝の心は人間の痛覚さえも麻痺させるのだ)

有り難う御座います、感謝。微々たる精進ではあるが、人様のお役に立たせて頂く徳積みができた事。
有り難う御座います、感謝。白血病について改めて考える学習のきっかけ。
有り難う御座います、感謝。日本は、いや世界は、いや地球は‘人類同士の助け合いで成り立っている’との再発見。(輸血を拒否するカルト宗教があると聞くが、アンタらどっか他の惑星に行きなはれ)

投稿者 : 浦上俊司| 2006年06月14日 19:53

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