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2009年09月21日
『時は金なり in.徳島:続編』~☆浦上俊司

「○○さん、垂水インター出口付近で立ってますよ。○○さんは今どのあたりですか?もう着きますか?」と聞いた私に彼は言った。
「いや、まだ淡路島です」と。
この時点で、彼が言った橋とは明石大橋ではなく鳴門大橋だったと気付いた。
「えらい淡路島は長いですわぁ~。なかなか突破できません」と彼。
「ほな、私が四国までタクシーで向かいましょ。そして淡路インター出口での待ち合わせに変更しましょ」と私。
電話を切った後、この交差点は車の通行量は多いが、流しのタクシーはほとんどいない事に気付いた。
焦りかけたが、領収書を貰っていた事と先程のタクの運ちゃんの名前を覚えていた事が幸いした。
タクシー会社に電話して無線で呼び戻してもらった。
さっきの運ちゃんが、半笑いのような愛嬌のある顔で駆けつけてくれた。
「すんません、結局私が淡路インターまで行く事になりました」と言った私に、運ちゃんは「はい喜んで~」とばかり、長距離を稼げる仕事に満足げな表情を浮かべた。
数十分後、無事に営業マンの彼と合流できた。
「いやぁ~、えらい大変なハプニングでしたな~」と笑いながらも、時刻は11時前になりかかっており、焦りも感じ始めていた。早速彼の車が私を乗せて走り出し、このまま渋滞さえなければ会場には12時半には着くだろう。そしてゆっくり昼食をとっても、13時半の本番スタートには間に合う。
これで大丈夫だろうと油断した。
すると数分後、快調に高速道路を飛ばしていた彼の車が急にプスンプスンと言い出した。
助手席に乗っていた私にも明らかに分かるほどエンジンの回転数が急降下し始めた。
運転中の彼の横顔をチラ見すると、引きつったような笑いを浮かべて変な汗をかいている。
「ど、ど、どないしましたん??」と聞く私に彼が若干震える声で言った。
「浦上先生、すんません・・・。ガス欠です・・・」。まるで医師がご家族に近親者の臨終を告げる際のトーンのようだった。
私が遠回りをさせたばっかりに、こんな事になってしまった。
私が予定通り高速バスに乗れていれば、彼は徳島駅までの迎えでよく、ガソリンも充分にもったはずだ。
しかしそんな後悔先に立たず、とにかく目の前で起こっているガス欠に対処しなければいかん。
考える間もなく、あれよあれよという間に減速し、路肩に停まってしまった。
それでも不幸中の幸いで、丁度停まった位置に非常電話があった。
‘う~ん、まだまだ恵まれている。まだまだ見放されていない。まだ何かがきっと守って下さっているぞ’と感じた。
停車中の車の横を猛スピードでトラックやバス、そして自家用車が通り過ぎて行く。
恐る恐る車外に出、非常電話に向かう彼。
車内で祈りながら待つ私。
非常電話で話す彼の姿をバックミラー越しに見ると、なにか必死で交渉している雰囲気が伝わってきた。
数分後、車に戻ってきた彼は、魂が抜けたような放心状態で言った。
「非常パトロール隊がガソリンを持ってきてくれるらしいですが、1時間以上かかるそうなんです・・・」と。
完全に‘これで終わった・・・’と二人は絶望した。
これで、講演会に穴が開く。こんな失態は14年間の喋くり人生の中で初だ。
これで信用を失墜し仕事も減るだろう、生活水準も下げざるを得ないだろう、といったネガティブな妄想が一瞬よぎる。
なんとかして移動手段を考えねばならん。
とはいえ、流しのタクシーはもちろん走るわけが無いし、あったとしても路肩に車を置いたまま立ち去れない。
ヒッチハイクに応じてくれそうな暇な車も無い。サービスエリアは何キロ先にあるのかさえ想像つかない。
しばらく何をどうするのが先決なのか、二人とも思考停止状態が続いた。
その間にも時間は容赦なくドンドン過ぎていく。
「とにかく動きましょ。そしたら何かが変わるはずです」と私が言った。
彼は笑ったような困ったような、はにかんだ表情のままだ。
人はパニックに陥った時には、意外と透明感のある笑顔を浮かべるものだと発見した。
「エアコンを切って、もう一回エンジンを掛けてみたら?」と言った私の言葉に、フト我に返ったかのように彼の目に光が戻り、イグニッションキーを回した。
するとエンジンが掛かった。
そろ~り、そろ~りとアクセルを踏む。
動き出した。
走り出した。
1キロほど誤魔化し誤魔化し走った。
すると、下り坂になってきた。
‘ラッキー!’と心の中で叫んだ。いや、実際に声に出して叫んだ。
彼も同じ思いを抱いている様子で、アクセルから右足を離し惰性で走る。
2キロほど誤魔化し誤魔化し走った。
すると、出口が見えてきた。
どこの出口か知らんが、一か八か降りようと話し合った。とにかく高速道路に残っていてはどうにも身動きが取れない。
料金所で一旦停止すれば、おそらくそのまま停まる。
しかし幸いにもETCだ。停止することなくゆっくりと料金ゲートをくぐり抜けた。
ところが、まだまだ試練は続く。料金所を出た後の信号である。
遠目に見えるのは赤信号だ。信号で一旦停止すれば、おそらくそのまま停まる。
しかし幸いにも信号に差し掛かる直前で青に変わった。停止することなくゆっくりと信号を通過した。
祈るように沿道の建物を見た。左手にローソンが見え、その先に奇跡的にガソリンスタンドが見えた。
そこまでもつかどうかは分からんが向かうしかない。
前の車が停止しない事を祈りつつ走った。
そしてガソリンスタンドに入る縁石に乗り上げた所で、ついに力尽き完全停止した。
全身の力が心地良く抜けていくような脱力感を味わいながら、車を後ろから押して給油ホースへと付けた。
彼の車はホースから溢れ出るガソリンを、まるで乾き切った体を潤すためにスポーツドリンクをがぶ飲みするアスリートのようにむしゃぶりついた。
有り難うございます、感謝。会場に到着した時にガッチリと握手を交わしたエージェントの彼。
有り難うございます、感謝。エージェントの彼との親密度が一気に深まった濃密なハプニングの波状攻撃。
有り難うございます、感謝。‘時は金なり’を教えてくれた徳島の講演会。
~☆浦上俊司
投稿者 : 浦上俊司| 2009年09月21日 14:16
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